令和4年4月より、日本海新聞紙に‟但馬を結んで育つ会リレーコラム~地域の医療・福祉のあした~”が掲載されております。
令和6年6月は中野穣副代表の寄稿です。
『身よりなき老後と孤独死』
NPO法人但馬を結んで育つ会副代表理事 中野 穣
この春の新聞報道で気になるテーマが二つありました。一つは「身よりなき老後」です。厚生労働省の「2021年国民生活基礎調査の概況」の「65歳以上の者のいる世帯の世帯構造の年次推移」を見ると21年3月において、約3割が単独世帯、単独世帯予備軍の高齢夫婦世帯が3割となっており、増加傾向が続いています。
そういった現状においての、「身よりなき老後」が社会問題化しつつあります。「身寄りがない状態像」とは、①誰一人として身内がいない②身内はいるが音信不通③身内はいるが家族が支援を拒否④身内はいるが家族の支援を本人が拒否-の四つのパターンがあるそうです。現状でも認知症になった後の金銭管理、入院・手術、葬式等の対応が問題となっています。
もう一つは「孤独死」です。5月の政府データの推計値で、全国で孤独死が年間に6万8千人に上り、その8割が高齢者というものです。この孤独死の背景に身寄りがない人が相当数含まれているのではないでしょうか。
「多死社会」という言葉があります。超高齢社会を迎え、日本における年間死者数は140万人(22年)を超えました。30年に160万人を超えると言われています。問題となるのは「死に場所」です。医療機関で89万人、自宅で20万人、介護施設で9万人、その他で47万人という推計値があります。その他ってどこ?という話です。
医療機関も、治療の場であって「看取りの場」という考え方はなくなりつつあります。これからは、在宅もしくは介護施設でというのが一般的になっていきますが、現在でも看取りの場は7割が医療機関というのが実態で、福祉先進国といわれる国々と比較して在宅での割合が低いのが課題です。
当法人でもご家族にお看取りの要望を確認すると、ほとんどが施設を希望されます。病院に行くのではなく、慣れた場所で最期を迎えさせたいという願いです。お看取りを支えるスタッフも、家族の思いを尊重して、最期の瞬間に立ち会っていただけるように、その時が近いと判断したら繰り返し居室を訪問しつつ、家族に連絡するタイミングを計って、できるだけ多くの人でお看取りをさせていただきます。
「一度お顔を見た人は最後まで」という目標で、お付き合いさせていただいていますが、それがかなわないことも時々あります。そんな時は、とても悔しい思いをします。
お看取りは支援するスタッフも心が削られますが、そんな中でもいい看取りとは、家族やスタッフの気持ちが一つになって、一緒にその時を迎えることができることです。そんなお看取りができたときには、この仕事についてよかったと思える瞬間です。「先に逝く悲しみ」と「残される悲しみ」。果たしてどちらが深いのか、いつも考えさせられます。
そんな最期さえもかなわぬ人が今後増えるとするならば、人として、人生最後で最大の尊厳が守られないということになるのではないでしょうか。
日本海新聞 2024年6月29日土曜日 022ページ
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